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荒海や 年立つ波を 追うカモメ・・・黒川博之
毎年いつも年の暮れか年の初めに、私は厳冬の浜辺に足を運ぶ。 空と海の、月の引力の祭りを見に行く。すると、いつも吹雪が舞う空と寄せては返す波打ち際にウミスズメやユリカモメが瞑想している。そして足を洗われながら私も瞑想する。 ああ一体これまで何千人の私がこの荒涼とした浜辺を歩いたことだろう。世間の逃げて行く何重もの壁にいつまでも追いつけない私はその年の忘れものはないかと浜辺を放浪することもあり、時にはもう取り返すべくもない悲しみとともにたくさんの記憶を消滅させるために、そして時には可能性の花束を探しながら浜を彷徨するけれども、いつも海は黙って大きなコバルトブルーのおなかをゆすって笑うだけだ。寄せては返す海は急がず、空は時を繰り返すだけ風は号泣し歌うだけ、そして鳥は黙って生きているだけだ。ああ私の裡では海がとどろき、世界が私の心を波立たせるけれど最後には鳥がいっせいに飛び立ち、今日という名の時間が勝手に暮れてゆく、夕焼けの空と海と鳥の祭りのあとにはいつも私も満足して波の向こうに帰るだけだ。 |
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